ジョンというのは何も犬の名前ではございません。
植物園に勤めるスタッフでなんと16歳からこの植物園に勤めているという、植物分類花壇セクションのリーダーで僕と同じ年の独身英国人です。
彼の天性のユニークでオープンな性格と歳が同じだということで仲良くなりました。
彼のユニークなことは、他の人の趣味や主張に迎合することなく、我が趣味、主張を貫くことです。
しかもそれがお人柄なのでしょう、まったくイヤミがないというかむしろ僕は好感を持ってみています。
オモシロイやつだな、と。
彼の趣味の代表は「天気」でしょうか。
それはもう趣味の域を超えライフワークといえるかもしれません。
一旦天気の話になると止まりません。
雲のこと、気温のこと、降水量のことなど、特に大雨、豪雨、雷、雪、最低・最高気温など何かに特化した異常気象に尋常ならぬ興味を示します。
もともとは植物園内に百葉箱があり日々温度や知湿度などの基本的な気象要素を記録する係になったことに端を発しているようです。
地声がとても大きくて、それだけで裏表のないストレートな性格だと想像できるのですが、その大声で延々と天気の話を聞かされるとドッと疲れてしまいます。
他にも彼の趣味は、旅行、ワイン、チーズ、買物、株などで、買物といってもブランド品を買い漁るのではなく、近所のスーパーのポイントを貯めてそれを使って旅行をしたりするのです。
それはコツコツと貯めるといった感じではなく、車のない若手トレーニーを相手に「車でスーパーまで買物に付き合うからポイントはオレに頂戴ね。」という交渉をして一度に3人くらいの引き連れてスーパーに行くという貪欲さです。
この発想がすでにユニークというか笑っちゃうわけです。
それ以外は質素なもので着るものなどにも頓着しません。
この前ジョンが「あのサ、スエーデンのカルーナというところに氷で出来たホテルがあって、それがスゴク良いらしいんだけど興味ある?」と聞くので「あるある」と答えたところ、彼の家でパンフレットを見ながら一緒に検討しようということになりました。
その日の夕方植物園で仕事を終えると「何時頃来る?」と聞くので「そうねぇ、19:30頃かなぁ。」というと「分かった、食事も用意するから。遅れても良いけど19:30より早く来ないでね。」と不思議なことを言われました。
この辺もジョンらしいところです。
僕は約束の19:30よりも早まることなく手土産の定番であるワインを持って彼の家に到着しました。
飼い犬のBodo(ボードー)が狂ったように大歓迎してくれました。
家には彼の母親と妹がいてしばし雑談を交わしたのですが、二人ともジョン同様に声が大きいので笑ってしまいました。
1時間もしたでしょうか、そろそろお腹が減ったなぁと思った矢先にタイミングよくジョンが「マサヤ、ハギス食べたことある?」といいます。
ハギスはスコットランド料理ですがクセがあるので嫌いだという人も多いのです。
僕は結構好きだと伝えると、おもむろに袋に書いてある調理法を読み始めました。
それは単にお湯で茹でるだけのはず。
「ナニナニ、あーナルホド、お湯に入れて60分茹でるのかぁ。」ってこれから更に1時間ってことか?と空腹感がつのっていたのでちょっとカチンときました。
ことはそれで終らずさらに続きます。
付け合せのポテトを茹でているときにも会話に熱中して時間を忘れたためマッシュドポテトでもないのにマッシュしたかのようにイモの原型をとどめていません。
なんかマズそうなのです。
途中で旅番組でアイスホテルについてやっていたのでビデオに撮ってあるのでそれを見ようということになったのですが、そもそも整理整頓とは無縁の性格のようでビデオのどの部分にそれが録画されているのか自分でも分からなくなっていました。
大笑いしたのは、その旅番組を探すためにビデオを早送りしたのですが、そこに映っていたのはほとんどが「天気予報」だったことです。
天気予報を録画してみるっていうその天気オタク度に頭が下がりました。
早回ししながらも、最近の英国の異常気象を伝える場面になるたびに早送りを止めて「ホラ、これがこの前大風がふいた時サ。分かるだろ、この低気圧がさ・・・」と延々と解説を加えるのです。
お母さんも妹さんも頷きながら聞いています。
どうやらとてもユニークなお宅にお邪魔したみたいです。
お腹減ってないのかなぁ。
アイスホテルはその名のとおりホテルそのものが氷で出来ていて、マイナス××度というなか氷でできたベッドにトナカイの毛皮をひいて寝袋でねるというもので、追加オプションで空港からは犬ぞりでホテルまで行けるのだとか。
普段節約家で好きな言葉が「バーゲン」というジョンが選ぶ旅なので本格的な安上がりな旅を想像していたのですが、そのツアーは1週間で総額1000ポンドもします。
「ウエッ、高い!」とおよび腰になっていたら「どうよ、マサヤ。いいだろ?」とウインクします。
「思ったより高いんじゃない、コレ」「そう、ちょっと高いんだ。でもサ全て氷でできたホテルに泊まって、今の時期昼でも薄暗いっていう極地の体験ができるんだからサ。オーロラも見れるかもしれないし、人生何度もある旅じゃないヨ」なんて会話があってどこかスッキリしないながらも話をすすめることにしたのでした。
そんなやり取りの末、ようやく待ちに待った夕食にありつきました。
時間はなんと22時15分。
家にきてからおよそ3時間たって食事になると分かっていれば何か軽く食べてきたのに。
呆れるよりはむしろジョンらしくて笑ってしまいましたが。
彼はいつか日本にも来たいと言っています。
ここにも彼の壮大な計画がありました。
それはスーパーのポイントを貯めてくるというもの。
僕も何度か一緒に行ったことがありますが、彼はスーパーに到着するとまずエントランス脇にある専用マシーンで「今日のお買い得」「今日のボーナスポイント商品」といった情報を取り出して、どうやったら効率的にポイントを稼げるか目処をつけます。
笑ってしまうのはこれをスーパーの店員よろしく僕らに売り込んでくることです。
「ハムいらない?ハムは今日だけ200ポイントボーナスがつくんだけど。」とすり寄ってきますので、必要のあるものであれば協力しますがそうでなければ無視です。
彼も一緒に買物をするのですが、その買い方も徹底していて笑ってしまいます。
夜のスーパーは賞味期限切れが迫っているものに赤札が付けられて安くなります。
彼の買物用の押し車(トローリー)には赤札商品が満載です。
嬉しそうに僕に見せたのはタラのすり身ペーストでなんと10ペンス(18円)で、本日賞味期限の赤札商品でした。
よくこんなもの探してくるなぁと感心してしまいます。
こちらのスーパーでよくあるのが「buy 1 get 1 free」というもので「ひとつ買えば次のひとつはオマケ」みないなもので、これと赤札商品をうまく組み合わせると節約効果は高く、彼はそのあたりも抜け目がありません。
彼に今日までの成果を尋ねると「パリ往復分くらいはある」と胸を張って言っていましたが、彼がマイレージを使って来日するのはいつの日でしょうか・・・。
そんなユニーク英国人ジョンのお話でした。
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