どうして「スバラシキ英国園芸ノススメ」なのか

ちょっと読んで 「あんまり面白くないなぁ」 と思った方。
騙されたと思ってしばしお付き合い下さい。

7年間の英国留学中にしたためたメールは300を越えました。
そしてこれが 「尻上がり的」 に面白くなっていくのです。

当初の初々しい苦学生の姿から、徐々に英国に馴染んでいく様子は100%ノンフィクションのリアルストーリー。

「スバラシキ英国園芸ノススメ」の旅はまだ始まったばかりです。

2012年6月28日木曜日

2001年10月06日 「車購入始末記」




唐突ですが車を買いました。

現在の貧乏学生の身分では車などはいささか分不相応ではありますが、買ってしまいました。

この国に来た目的のひとつにより多くの庭園を見てまわるというものがあるのですが、多くの庭園は「車ナシでどうやったらここに来られるの?」というくらい辺鄙なところにあります。

これまではレンタカーを借りたりしていたのですが、それもかなりの出費でこれなら安い中古車が十分買えると踏んだのです。

別にオネエちゃんを助手席に乗せて遊ぼうというわけではなく、あくまでも学術的要請に迫られてのことで自己投資と言えましょう。

そんなわけで「車を買うゾ!」と決意したのが今年の1月頃で、それからかれこれ9ヶ月の長い道のりを経て今日に至るわけです。

まずはどうやって車を手に入れるかが問題でした。

①新車 ②知人・友人から ③個人間売買仲介専門誌 ④正規ディーラー直営中古車センター ⑤町の中古車屋
考えられる全てを詳細に検討した結果⑤を選択。

そして予算、車そのもの(メーカー、年式、走行距離、主設備など)、保険、税金など考えうる限り多角的に研究を重ねる日々でした。

これにしようと決断の一歩手前まで何度いったことでしょうか。

試乗の度に雨漏りがしたり、ワイパーが動かなかったり、オイル漏れがあったり、値段が折り合わなかったり・・・。

自分でもビックリしたのは、中古車屋のオヤジと一緒に試乗したとたんに雨も降ってないのに屋根からドバドバと室内に雨漏りがしたときです。

僕とオヤジの膝はビッショリで「こんな車は買えないよ。」と言うと、オヤジは笑いながら「大丈夫、大丈夫」と繰り返します。

僕は真剣に買おうと思っていただけにそのふざけた態度にちょっとカチンときて「可笑しくないぞ」と言って精一杯なめたらイカンぜよ光線を放ってやりました。

そんな紆余曲折を経て結果的にはフォードの6年落ちの小型車にしました。

これも試乗したときには前輪付近から異音はするし、時計は壊れているといった具合で相当迷いましたが、中古で探している限りは「完全な車」は望めないというのは分かっていましたので、最終的にはこれで妥協しました。
9ヶ月も悩んでイヤになっちゃったというのもありますが。

お蔭様で英国での車をめぐる事情にはかなり明るくなり、最近では車を見ただけで「アレはざっと××ポンド」と値踏みまで可能になりました。
もはや特技の域ですね。

なにも中古車を買ったくらいで大袈裟な・・・という声も聞こえてきそうですが、自分にとっては超ビッグな買物で震えがきましたのでちょっと御報告する次第です。

金額的には車としては大したことはないのですが、自分の小切手では信頼してもらえず、銀行振り出しの小切手を用意したというあたりに特別振りがうかがえます。

大きくお金が動くといえば普通は結婚、自宅購入といったあたりでしょうけど、いずれも僕には縁がなさそうなので車というのは我が人生で一番デカイ買い物ということになりますね。

そしてこの辺りで「ハハーン」ときたら相当鋭いですね。
この車の購入は前節「寝袋」と見事なまでにリンクするのです。

庭巡りはかなり遠方に繰り出すこともありうるのですが、僕は車内で寝袋を使って寝て宿代を浮かせようという壮大な構想を持っているのです。

宿代がおよそ一泊あたり6000円くらいでしょうか。

これが丸々浮いてしまうのですから、その節約効果は絶大と申せましょう。

「ナーンダ車なんか買っちゃって結構贅沢してるんじゃない」と思われたらとんでもございません。
贅沢転じて節約となる、でございます。

かくして晴れて車のオーナーになりましたからには安全運転にて全国庭巡り行脚作戦を華々しく決行しようと決意を固くした次第です。



2012年6月24日日曜日

2001年10月03日 「Cool」




近所のパブの暖炉には早くも灯が入り秋から冬へと急速に季節は進んでいるように思われます。


9月は何といってもNYテロ事件で世間は大揺れでした。


9月14日には植物園でも午前11時から3分間黙祷を捧げました。


テレビは相変わらすこればかりです。


こちらでは9月から新年度でして僕もケンブリッジ生活2年目を迎えるにあたり「勉強量を増やす」「運動量を増やす」「酒量を減らす」といういわば「2増1減作戦」を目論んだのですが、フタをあけてみれば全てがその逆の方向へと向いてしまうというなんとも情けない1ヶ月でした。


現在植物園では高山植物とロックガーデンの担当なのですが、9月から新たにトレーニーとして加わったベン(正式名=ベンジャミン・キャロル シカゴ出身)とペアを組んで仕事をしています。


アメリカ出身の彼と終日一緒にいると「米語」と「英語」の違いに気付かされ、ときにはそのあまりの違いに大笑いしてしまいます。


彼の口からでるアメリカン・アクセントの英語は「Cool !」「Oh my god !」のオンパレードです。


イギリス人も言わないことはないですが、その頻度が違います。


抑揚、強弱などを変えて使い分けているようです。


例のNYの貿易センタービルに飛行機が突っ込む瞬間、中継の音声はひたすら「Oh my god !」ではなかったでしょうか。


「Cool !」は「カッコエエ!」とか「シブイ!」という意味なんでしょうが、彼といるともうなんでもかんでもCoolです。


今日は温室内で作業をしていたら珍しい花のつぼみを見つけて「That’s cool man!!」と興奮するのでこっちはちょっと力が抜けました。
女子高生がなんでもかんでも「かっわいいー」と言うのと似てますでしょうか。


あと9月のトピックスとしては「例の寝袋に究極のオプションを追加した」というのがあります。


申し上げておりますように日に日に気温が下がってきましたので試しに寝袋を試してみたところ、ことのほか快適で一人悦に入っておりました。


その話を隣室のビルとパブで飲んでいるときに話したらば、「そんなに頻繁に使うのならライナーを買ったらいいんじゃぁない?」というアドバイスをしてくれました。


これは言わば寝袋のシーツみたいなもので、汚れたらこれだけ洗えばキレイになり寝袋は長持ちするというスグレ物です。


なぜ究極かといえば、このライナーには色んな素材があるのですが、この度は奮発してシルクにしたからです。


早速試してみたところ最高の肌触りでシビレました。


ベン風に言えばCool!!でしょうか。


普段が節約、貧乏生活なのにシルクに包まり眠るとはお城に住む王子のようでなんとも贅沢じゃあございませんか。


そんなわけで野望は大きく、結果は小さくという9月でしたが早くも10月の到来です。


落葉樹はボチボチと紅葉を始めました。


これから約1ヶ月半はオータム・カラーといって紅葉がとてもキレイな季節です。


毎日カメラを抱えて日々の変化を追いかけています。


同時に日照時間も12月21日の冬至に向けてグングンと短くなり、なんとも憂鬱な気分です。


まぁ今年は寝袋様がこの憂鬱さを和らげてくれるとは思いますが・・・。

2012年6月15日金曜日

2001年09月23日 「元気です」



気が付けば秋深しといった風情で随分と冷え込むようになってきました。

NYの件で今もそうですが、大揺れの9月となりました。

丁度事件当日は母とその友人が日本から遊びにきていて、ロンドンまでオペラを見に出掛けていました。

終日外出していたので、事件を知ったのはロンドンからケンブリッジに戻る電車を待つキングスクロス駅構内のパブのテレビから流れるニュースでした。

繰り返し流される映像があまりに現実離れしているので、口を開いたままテレビを見ておりました。

知人、友人も何人かNYにいるため心配だったのですがどうやら皆無事のようです。

これからいったいどうなるんでしょうか。
普段自宅と植物園の往復という平和このうえない生活を繰り返しているので、連日のテレビ報道はあたかも映画を見ているようです。

さて、このまえ林望という人の本を読みました。

ケンブリッジに滞在していたときのことを綴ったエッセーですが、そのなかで彼はケンブリッジに滞在中にルーシー・ボストンという児童書作家のマナーハウスにホームステイしたことを「英国一恵まれた日本人」と自負しています。

植物園に僕と同じくトレーニーのケイトという33歳の女の子がいます。

彼女は突然バリカンで髪の毛をバッサリ切ってきたり、獣医の彼氏と山に行って怪我をしたときに彼に麻酔なしで彼に縫合してもらったり、どこか野生的なそれでいてちょっと魅力的な女性です。

彼女に今度僕の母親が来るので観光名所巡りをすると言うと「じゃぁうちの母親の家に来たら?」と言います。

「うちは色んな日本人が来るわよ。」と言うので「実家はB&Bかなにかなの?」と聞くと「そうじゃぁないんだけど・・・。プロフェッサー・ハヤシって知ってる?」と言われハッとしました。

彼女の名前がケイト・ボストンだったことを思い出しました。

でもルーシー・ボストンが母親という年齢でもないし、ルーシーは既に他界されたと思っていましたので更に聞くとケイトはルーシーの孫だというのです。

エッセーに出てくるルーシー・ボストンのマナーハウスはルーシーの娘であるケイトの母親が住んでいるとのこと。

それを聞いて「ウッヒャー!」とたまげたものです。

すきっ歯で手巻タバコをくゆらせながら「シッシッシッ・・・」と歯の間から息を漏らせながら笑うその姿からは、そんなスゴイおばあさんの孫には見えないのですがねぇ。



2012年6月11日月曜日

2001年09月04日 「秋・・・でしょうか」


早いもので9月になりました。
こちらでは9月が新学期ということになっていて、8月末に去るもの、9月に来るものと人の入替えがあります。

私も植物園で2年生になりました。

悲喜交々でございます。

現在住んでいるGWYDIR STREETという場所は駅、繁華街、植物園にそれぞれ徒歩10~15分とまずまず好立地で、近所には行きつけのパブ、パン屋、新聞屋があってまずまず気に入っています。

アパートの隣人ビル君は今となってはかけがえのない友人です。

しかし、このアパートの大問題は冬季の寒さと湿気です。

英国の典型的な暖房設備であるセントラルヒーティング設備がないので、部屋ごとに電気ヒーターをつけるのですが、効果はイマイチだし電気を相当食うので貧乏学生としては心休まらないわけです。
そこに加えて1800年代に建てられたこのボロアパートは断熱材といった気の利いたものは一切施していないために、部屋の壁が結露してそこにカビが生えるというおぞましさです。

この前大雨が降った際、ケーブルテレビが映らなくなり、電話にてテレビ会社に苦言を呈したところ、電話口のオペレーターが「私の言うとおりにやってみてください。まずケーブルを壁から抜いてみてください・・・。」という指示に従って、普段は机の影に隠れているケーブルを抜くために机をずらしたところ、壁にビッチリとカビが生えていて思わずのけぞってしまいました。


この冬場の寒さと湿気にはホトホト嫌気がさしておりましたので、実は植物園に「植物園内付設のコテッジに移りたい」と希望を出しておりました。

このコテッジは植物園の温室を暖めるボイラーと熱源を共にしているため、冬場でも確実に24時間暖かいのです。
洗濯物も即乾燥です。

しかしこのコテッジは毎年9月に入ってくる新入生に優先権があり、わずか2部屋は大抵スグに埋まってしまいます。

僕は希望は出したものの、新入生の希望がなかった場合にのみ引越しとなるということでまさに日々祈る思いでした。

結論としては、あっさりと希望者が2名に達し、僕は引き続きこの寒さと湿気と共にもう一度冬を越さねばならなくなったのでした。
我が部屋にては寝るときに暖房を切るのですが、ひどいときは吐く息が白くなるほどです。

コテッジの件があまり期待できないと悟った、とある日に街のアウトドア屋にて「セール」の文字が目に留まり、ホンのちょっとだけ安くなっていた寝袋を衝動買いしてしまいました。

寝袋は昨年「夏1シーズン用」というのを買って普段布団の上に掛けて使ったりしていたのですが、それとて焼け石に水。

よって今回は「3シーズン対応」「適応温度マイナス7度」という強力なやつを手に入れました。

まだこれを使うにはチト早いとは思いましたが、はやる心を抑えきれず、部屋で早速この寝袋に包まってみました。

さすがにマイナス7度まで耐えうるだけあってむせ返るほどの暑さです。
とても現段階ではこれでは眠れずクルクルと巻いてしまいました。
来る寒さにおびえつつも、これでどこか楽しみというフクザツな自己満足にひたりました。

アパートでも人の入替えがあり、僕の向かいの部屋も9月1日に新しい住人が来ると大家のオバちゃんから聞いていたので、引越しの気配を感じて挨拶に行くとそこにいたのはギャビンという見覚えのある男性でした。

昨年このアパートに僕が引越してきたときに、大家のオバちゃんが所有する近所の別のアパートで見かけた男性です。

そのときは丁度そのギャビンのいるアパートに父親に付き添われた若い女の子が部屋を見に来ていたのですが、付き添いの父親が「こんな若い男2人が住むアパートに娘を入れて大丈夫か」という顔をしていましたが、その父親の表情をみた大家のオバちゃんが僕の耳元でこんなことを言いました。

「あのお父さん、ここの男の子2人のこと心配しているみたいだけど、そんな心配はいらないのよ。」
「エッ?どうしてです?」
「だって、あの2人はゲイなのよ。彼女には興味がないはずよ。うふふっ。」

うふふっ・・・て、そのときの一人が僕の部屋のお向かいに引越してきたわけです。

この国はゲイにとてもオープンで随分慣れてきましたが、それでもときどき驚かされます。

口説かれたり、襲われたりすることはないのは分かっていてもナンカ複雑な気分でした。

まぁオバちゃんも口から先に生まれたのでは?というほどお喋りなオバちゃんですので、情報の信憑性にはいささか疑問が残りますが、確かめようもなく、また、確かめたところでどうなるものでもなく、ってところです。

そんな9月の始まりです。