どうして「スバラシキ英国園芸ノススメ」なのか

ちょっと読んで 「あんまり面白くないなぁ」 と思った方。
騙されたと思ってしばしお付き合い下さい。

7年間の英国留学中にしたためたメールは300を越えました。
そしてこれが 「尻上がり的」 に面白くなっていくのです。

当初の初々しい苦学生の姿から、徐々に英国に馴染んでいく様子は100%ノンフィクションのリアルストーリー。

「スバラシキ英国園芸ノススメ」の旅はまだ始まったばかりです。

2014年9月23日火曜日

2004年04月06日 「近況~2004年4月」

大変ご無沙汰をしておりました。

元気でお過ごしでしょうか。

申すまでもなく、今は4月。

春爛漫。

先週、時計の針を一時間進めて、サマータイムに突入して本格的に良い季節になってきました。

さて、何をしていたかというと、マア大したことはないのですが、それでも学生らしくレポート、試験などに追われてアッという間に数ヶ月が経っていたという次第。

レポートはpropagation(辞書をひくと植物の繁殖となりますが、ちょっとシックリこないカンジ)に関するプロジェクトで、ワタクシは「ヤドリギ」という風変わりな植物を研究しておりました。

これが始めてみるとナカナカ面白くて、本、インターネットなどで世間に普及している一般的な繁殖方法は分かっていたのですが、人づてに色んな情報を収集していると、ナントこれまでに全く前例のない方法で、しかもかなりの成功率で、繁殖を可能にしたオジサンに出会うことが出来て、この画期的な方法を織り込みつつヒーヒー言いながらレポートを仕上げたのでした。

自分が採取してきたヤドリギが発芽したところ

ヒーヒーというのは本当で、所詮ワタクシの英語表現力などはタカが知れていて、例えば「この画期的方法はコロンブスの卵的発見ナリ」などと言おうとしても、そんな表現は辞書になく、英国人に意味を説明して「で、このコロンブスの卵って何て言えばいいの?」と聞いてもそんなのはないと言われる始末。

頭の中にナイスなアイディアが沸いてきて、「ヨシッ!!この線でいくゾ」とイザパソコンに向かうといきなり5歳児の感想文的になってしまうのにはホトホトイヤになりました。

平行して2週間毎にある、植物同定試験(全てラテン語)も準備が十分に出来ないこともシバシバで、慌てて試験前日に「ヨシッ!何事も気合ダ。気合が全てなのダ。」と机に向かい、デジカメで撮った植物の写真とその名札の写真を交互に見ながら指が折れるほど書いて書いて書きまくって、なんとか40個の植物名(科・属・種・品種)をラテン語で詰め込み試験に臨み、「今度からはもっと早くから準備しなきゃね・・・」と毎回同じ反省を繰り返すばかり。

学名は避けて通れない茨の道


この手の記憶モノは、不惑目前の硬くなった脳味噌にはかなりキビシイものがあります。

しかもラテン語はなんら普段の生活に接点がないので、もう理屈じゃなく語呂合わせなどを駆使したゴリ押し式です。

その一日で40個全てを詰め込んだ日は、頭から湯気が出ていた(多分)ですし、こぼれ落ちないように「禁酒」までしました。

このキュー・ディプロマというコースは1年=12ヶ月のうち9ヶ月は植物園で実習を通じ学び、3ヶ月は朝から晩まで学校で講義があるというもので、この4月からの3ヶ月がこの1年生の授業期間になります。

「土壌学」「植物分類学」「植物解剖学」「植物形態学」「植物構造学」「遺伝」「デザイン」・・・・などなどを学ぶのですが、見てのとおり「生物」の授業のような内容で、これまで英国に来てから学んできたものを更に詳しく、深く学ぶことになります。

毎度頭が痛いのが専門用語で、「分裂組織の細胞は小型で液胞がなく、核が大きく細胞壁が薄い」なんてのを全て英語で言われると、もはや訳すことは意味がなく、そのまんま理解するしかないですね。

だってそもそも高校時代からこの課目は避けて生きてきたわけですから日本語で言われたところでなんの助けにもなりません。

付け加えていうなら、ワタクシの人生で5段階評価で最低の「1」を取ったのは後にも先にも高校時代の「遺伝」でした。

それをこの年になって英語でやり直すとは、人生とは摩訶不思議なものです。

まあ、3ヶ月間は「忍」の一文字です。

でも本当に季節は良くなりました。

薄手の上着で大丈夫ですし、日照時間もグーンと伸びて何処かに繰り出したい気分です。

植物も、スイセン、クロッカスなどは既に終了し、今はコブシ、モクレン、レンギョウなどでしょうか。

春、春、春

冬の間は控えてある芝刈り作業もあちこちで始まり、刈り込んだ
ばかりの芝の匂いを嗅いでいると、「ウーン、いい季節じゃ」と腕を組んで大きく頷きたくなります。

テント、寝袋を担いでの遠出は3ヶ月後のお楽しみにしておいて、目下自転車で近場を見て回っています。

近場と言ってもどうして捨てたものではなく、例えばリッチモンドという街にはリッチモンド・パークという1000万㎡の広大な公園があり、ここはその昔王室の狩猟場だったということで、鹿なんかも見かけます。

天気が良ければ、その横を流れるテームズ川のほとりにあるパブなどのテラスで一杯やるのもイイもんです。

現在、大家夫婦はフランスの別宅に行ってしまい、留守を任されている僕としては気楽に一人暮らしをエンジョイしております。

留守中は何時にトイレを流そうが関係ないですし、揚げ物、ニンニク料理なども気にせずバンバン料理して極楽ですね。

因みに昨日、一昨日と2連チャンでトンカツを揚げて、あまりの美味しさに絶句していたところです。

そんなこんなの春到来、英国風情です。

それでは、また。

2014年9月15日月曜日

2004年01月18日 「困った身近な問題」


冴えない天気、上がらない気温。

そんな中にも確実に日が伸びていくのが感じられ、季節は間違いなく良い方向に向かっていると思われます。

くだらないながらも真剣に悩む、そんな困った問題の話。

現在の住居はいわゆる下宿形式で、大家夫婦との共同生活です。

個室を与えられ、キッチン、シャワーは大家さんと一緒に使います。

慣れてきたとはいいつつも、そこは何かと気を遣ってしまいます。

例えば、ニンニクなどを使った料理をするときには出来る限り換気を心がけたり、夜遅く帰るときには音をなるべく立てないように忍び足にて自室に滑り込んだり、とマア常識的な範囲で気を遣うわけです。

僕は基本的に早起きの生活パターンを貫いており、大体5時半から6時の間に起きて勉強したり、朝ご飯を食べたり、お弁当を作ったりするのですが、そんな早朝に大家夫妻は起きているはずもなく、なるべく音を立てずにとコソコソしているのです。

朝起きるとまず何をするか?

そうです、おトイレに向かいますね。

用を足して、当然にして流す。

そんな当たり前の行為を繰り返していたある日。

トイレを流して、自室に戻った際、カベの奥から「キュルキュル、シュシュシュー」となにやら異音がします。

どうやらカベの中に水道パイプがあるらしく、そんな音がするようです。

当初、「ははーん、セントラル・ヒーティングのお湯が家中を駆け巡る音だな、さては。」などと思っていたのですが、実はこれはトイレを流したあとにトイレのタンクに水をためるために起きる異音であるとある日気付いてしまいました。

この異音、かなりのボリュームで敏感な人なら安眠を妨げられるに値するものです。

早朝、用を足したあとトイレで独り考え込んでしまいました。

今(5時半)流すよりは家をでる直前(7時半頃)に流すほうがいいのかも。

イヤイヤそんな用を足したまま流さないなんてイヤだわん。

もう葛藤の嵐です。

かのシェークスピアは、「To be, or not to be. That is the question.(生きるべきか、死すべきか。それが問題だ。)」とのたまわったらしいですが、タテバヤシは言いたい「To flush, or not to flush. That is the question.(流すべきか、流さぬべきか。それが問題だ。)」と。

どうです。

くだらない問題でしょ。

しかしかなり真面目な問題です。

タテバヤシ歳38にしてトイレについて悩んでおります。

2014年9月3日水曜日

2003年12月21日 「サクラ散る・・・」


英国では「HEALTH&SAFETY REGULATION」という規則があり、いわば安全衛生に関してかなりうるさくなっています。

園芸上は避けて通れない雑草駆除、病害虫駆除などの薬剤散布に関しても試験を受けて資格を持たなくては作業は出来ないことになっていて、この度、費用全て植物園持ちでこの資格の試験を受けました。

見よ、この真剣なまなざし



3日間の講義と実技を経て、半日掛かりで一人づつ試験を受けます。

よって試験は一日二人。

僕は3日目の午後。

それより前に受けた5人はことごとく合格し、準備も万端だった僕は自信満々で試験に臨みました。

試験とはいっても言わば運転免許のようなもので、常識的でさえあればマア問題なく受かるハズ。

前半は試験官が矢継ぎ早に理論についてアレコレと質問してきて、それをなんとかクリアし、今度は実際に長靴、専用のつなぎ、手袋をして擬似薬剤(水)の入ったタンクを背負って芝に薬剤を散布します。

これは与えられた場所の面積から、散布する薬剤の濃度、分量を正確に計算し、散布終了時にはタンクが「ほぼ」カラになってなくてはなりません。

芝には4本の細い竹が刺さって、散布するエリアを示しています。
例えば幅9メートルのエリアであれば1.5メートルの幅で散布しながら3往復すれば良いという訳。

問題は、散布し損ねた部分があったり、逆に2重散布する部分があってはならず、これを成し遂げるために1.5メートル間隔で竹の棒を目印に地面に刺していきます。

さて、実際にそのエリアに行ってみると・・・。

現在英国の日照時間は非常に短くなっており日没は16時前。
しかもあろうことか、当日は厚い霧が発生して目を凝らしても、25メートル先にある竹なんぞハッキリ見えやしないのです。

それでも我が良好なる視力(裸眼両目1.5)を信じ、霧の中をシューシューと薬剤散布の真似事をしつつ、突き進んだのでした。
おごれるもの久しからず。

最後の竹の棒を通過し、背中のタンクがほぼカラになり、勝利を確信した僕は得意満面で「終了しましたッ!!」と試験官に告げると、「ウーン、悪いが試験は不合格だよ」ですと。

「えっ?何でですか??」と尋ねると、竹の棒を一本見過ごして、一箇所に二重散布、その分一箇所には未散布という一番やってはいけないパターンをやらかしたとのこと。

がーーーーーーん。

「え、あの、その、霧でですね・・・。あの、そのもう一回やらせもらえませんでしょうか?是非、是非」

「良いけど同じ日の再受験は出来ないことになっているのだ」

ということで、ガックリし試験官と教室に戻り、事務的な書類のやり取りを済ませ、「理論合格。実技不合格。」という大して有難くもない書類を貰い家路に着いたのでした。

その晩はクラスメート全員が集まりクリスマス夕食会となっており、「不合格だった」と告げると「それウソでしょ、冗談でしょ」と取り合ってくれません。

でもホントに落ちたとようやく伝わったようで、笑う者、真剣に慰めてくれる者、など様々でしたが、僕としては笑ってもらったほうが有難かったかな。

3日間の講義期間中に教官が「この竹の棒を見誤って不合格になる人が毎年います」なんてのを聞いて「アホよのー。そんな大事なもん見誤るなっつーの」なーんてうそぶいていたのに。

そうです、そうなんです僕がそのアホなんですぅ。

日本で植木屋で修行をしていた頃。

この薬剤散布の手伝いをさせられたことがありますが、これはホントいい加減だったです。

今思えば。

僕がタンクを背負って親方がホースを持って梅の木などについたアブラムシなどに散布するのですが、風向き次第で目に入り「染みるなー」等と思っていたのですが、これは英国ではありえません。

着ていた紺色のティーシャツの薬剤が染みた部分だけ色が抜けていたりしましたから、かなり危ない橋を渡っていたのでしょう。

親方も、「時々気分が悪くなるんだよー」なんて言っていましたが、コレはいけません。

くだんの試験は再試験を翌週に受けて(快晴、霧なしの日)、合格しましたことを付け加えておきます。
では、また。