どうして「スバラシキ英国園芸ノススメ」なのか

ちょっと読んで 「あんまり面白くないなぁ」 と思った方。
騙されたと思ってしばしお付き合い下さい。

7年間の英国留学中にしたためたメールは300を越えました。
そしてこれが 「尻上がり的」 に面白くなっていくのです。

当初の初々しい苦学生の姿から、徐々に英国に馴染んでいく様子は100%ノンフィクションのリアルストーリー。

「スバラシキ英国園芸ノススメ」の旅はまだ始まったばかりです。

2012年5月31日木曜日

2001年08月19日 「2年」


「日本国民である本旅券の所持人を通路支障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えれるよう、関係の諸官に要請する」と外務大臣の名前でパスポートの見開きに謳ってあります。

そうかぁ、オレは田中真紀子に守られてるのかぁと安心のような不安のような今日この頃です。

そんなパスポートを見ておりますと「出国」のスタンプが押してあるのは1999年8月20日です。
自分にとってこの日は記念日のような感覚です。

暑い夏真っ盛りに、この先どうなるのか、一年で帰ってくるのか、それとも・・・。さして深く考えずに日本を離れて丸2年です。

現在は申し上げておりますようにケンブリッジ大学植物園に在籍しており、毎日が新しいことの発見で楽しく充実した毎日です。
あと一年はケンブリッジにいることになり、その後はヨークに戻るつもりですので日本に帰るのは早くて2003年の夏ころでしょうか。

庭や植物のことで今後生計をたてていこうという場合、「この道××年」という表現はよく使われますが、現時点ではまだたった「この道2年半」ですので説得力がありません。
そういう意味においては年月が経つのは楽しみですね。
当然中味も伴わないとマズイですが。

銀行員の時は「勘定が合わない!」という夢をよく見ていましたが、最近は「あそこの鉢に水を遣り忘れた!」という夢を見るようになりました。
思考の中心が確実に変わってきていると実感します。

本来は「あそこの鉢に水を遣っていない!」と英語で夢を見て「Oh my god!!」くらいのことは英語でうなされないといけないのでしょうが、まだそこまでいっていません。

生活にもリズムがでてきて、食事は健康面、節約面から自炊です。

最近は植物園内のスペースを個人的に貸してもらってダイコン、ニラ、ネギなどの日本野菜を育てています。

実際に育てることで勉強になるのと、懐かしい日本の味を味わえるので一石二鳥です。

ダイコンは現在収穫期で最近は毎日煮物、おろし、と大活躍です。

しかし八百屋でみかけるスラッとしたダイコンではなくてひねくれたへそ曲がりダイコンが出来上がってしまい、初めて堀り上げたときはショックでした。

何故・・・、これも勉強です。

この先いかなる展開があるのか自分でもよく分かっていないのですが、焦らずマイペースでやっていくつもりです。

海外で独りで暮らしているとこうやってメールをやりとりさせて頂くことは心の支えです。

暑い毎日がまだ続くのでしょうが、どうぞお元気で。



2012年5月20日日曜日

2001年08月13日 「キューのことなど」




残暑お見舞い申し上げます。


先週キューガーデンにての交換研修に行ってきました。


英国最高峰の王立植物園とは、かくも地方のちっぽけな植物園と違うのかとオドロキの連続でした。


初日の午前中にゲスト扱いをしてくれて担当者が植物園内を案内してくれましたが、とても午前中で全てまわれる規模ではないのでかなり端折ってまわりました。


主な温室だけでも3つあり、そのコレクションたるや開いた口が塞がらないというか、塞がった口が開かないという位にスゴイものでした。


この植物園には地上で花を咲かせる植物種の10分の1以上が集められているって、そんなに欲張っちゃぁイカンでしょう、という気になります。


その広さは300エーカー(=121万㎡=37万坪)だそうで、我がケンブリッジ大学植物園は40エーカーですのでその広大さがしれます。
まぁこの場合ヘンな単位は置いておいて、ウチが40でアッチが300だってことで充分です。


交換研修中は温室の中の養苗セクションでベゴニアの部屋を任されましたが、15×25メートルほどの部屋一杯にベゴニアがあり、掃除をして水を遣って摘み芽をするだけで午前中一杯かかるほどのスケールです。


それぞれ異なるベゴニアで中には希少な種類もあり、よくぞこんなに集めたなっと腹が立つくらい沢山あり、ややウンザリしてしまいました。


午後は日替わりでサボテン、多肉植物、食虫植物などの世話をしたのですが、これは面白かったです。


特にサボテンはとても個性的で可愛気があって「もっと知りたい!」という欲望が沸いてきました。


サボテンの責任者が「これ良かったら持って帰っていいよ。どうせ処分するやつだから。ナイショだからコッソリ目立たないように持っていってね。」と、可愛いサボテンを2つ貰ってきました。
食虫植物とはウツボカズラ、ハエトリソウ、モウセンゴケなど昔小学生のころ興奮して図鑑をみていたもの達です。


これだけの数を世話するということはスタッフの数も相当なものだと思われます。


ケンブリッジは20人前後ですが、恐らくキューでは100~150位はいるのではないでしょうか。
園内ですれ違って挨拶をしたとしても、「ハテ誰かしらん」ということは往々にしてありそうです。


色々と教えてくれるスタッフに「キューの良いところ」「キューの悪いところ」を聞いてみると、良いところはやはり「最高の設備、品揃え」「スタッフ全員のレベルが高い」悪いところは「官僚的」「保守的」「融通がきかない」といったところでした。
しかし、一度キューで働いたとなるとその後はヘッドハントがあったり、転職の際に有利になるといったメリットもあるようでした。


宿泊は植物園裏に隣接するコテッジに泊まりました。


若手スタッフ計8人が住んでいるのですが、夜にコテッジのラウンジで情報交換をしたりしてなかなか良いものです。


そのコテッジは表通りに面しているのですが、さすがにロンドンだけあって交通量はかなりなもので寝る段になって車の音がうるさくて参りました。
数日間珍しく暑い日があって窓を開けないと寝苦しかったのですが、窓を開ければうるさく、閉めれば暑く、とやや寝不足になりました。


キューはヒースロー空港から近いこともあって飛行機がひっきりなしに低空で飛んでいきます。
毎日飛行機を見て、音を聞いているうちに旅心に火がつき「どこかに行かねば!!」と妙に興奮してしまいました。


短い期間でしたので植物のことで学んだことは僅かばかりでしたが、普段とは違う目線でものを見るきっかけになったことや、今後の自分の見の振り方にもヒントが沢山あった気がして有難いチャンスに恵まれたと感謝しています。


そんな王立植物園での夏の一週間でした。

2012年5月13日日曜日

2001年07月09日 「近況」




連日の猛暑と聞いておりますがお元気でしょうか?


年々その暑さの異常ぶりが増幅されているような気がして今後の地球の行く先が不安になったりもします。


日本のテレビでウインブルドンテニスの中継を見ていただければ分かるかと思いますが、こちらもようやく暑くなってきました。
とはいっても37度などと体温並みの暑さになることはまずないですが。


冷房は普段必要を感じることがないので、設備としてないというところがほとんどです。
とはいってもスーパーマーケットや気の利いたレストランなどには冷房があります。


じーっと冷気のそそぎだす元を見てみると「MITSUBISHI」「DAIKIN」といった名前がほとんどであって、この分野もメイド・イン・ジャパン強しという印象です。


わたしの最近の植物園でのいでたちとしては短パン、ティーシャツ、ブーツ(安全靴)といったところで足元だけは規定によって守られています。
これは足首まであるいわゆるハイカットのブーツで、それに合わせて靴下をくるぶしギリギリまで靴下を折って履いているのですが、そこにクッキリハッキリと日焼けラインが出来てしまいました。


ブーツをぬいで裸足にサンダルを履いてみるとあたかも靴下を履いているかのようです。
これでラケットでも持ってウロウロしたら「あの人テニスボーイね・・・」と熱い視線を集めること必至です。


さて植物園生活もあと少々で丸1年になります。
最近ちょっと良い知らせがありました。


ロンドンにキューガーデンという植物園があるのを御存知でしょうか?
正式にはRoyal Botanic Gardens Kew(英王立植物園キューガーデン)という世界で一番大きな植物園です。


植物コレクションの数、規模、どれをとっても世界一ではないでしょうか。
王立という仰々しい名前があらわすようにここが英国園芸の総本山と言えましょう。


個人的にこれまで2回見にいったことがありますが、丁寧にまわると一日では到底足りないスケールに圧倒されました。


そんな憧れの植物園ですが、来る8月に僅かな期間ですが研修をさせてくれることになりました。


当ケンブリッジ大学植物園とキューガーデンの間で研修生を交換しあおうという制度を構築しようとして上層部がいろいろ話し合った結果「では試しにちょっとやってみますか。」となったようで、当植物園からは有難いことに私が行くことになりました。


私にとってはちょっと信じ難い「イイ話」なので大興奮しております。


例えるなら「バレエを志して英国にきてロイヤルバレエ団でちょっと躍らせてもらえる」ようなものでしょうか。
当然「その他大勢役」で。


ある意味ではケンブリッジ大学植物園を代表して行くわけですので少々プレッシャーも感じます。


「エッ?!こんなことも知らないの?」などと言われないようにせねばと思いますが、今更どうなるものでもありません。
まぁ折角の機会ですので一人でも多くの人と知り合ってネットワークを広げることを目標に楽しめればと思っています。


それで楽しい報告が出来ればなによりです。


そんなわけで相変わらず元気に楽しくやっております。


暑い折、どうぞお身体をお大事に。

2012年5月6日日曜日

2001年07月02日 「7月」



早いもので2001年も半分が過ぎてしまいました。本当に時の経つのは早いものです。

この週末は行動範囲を広げて活動的な週末を過ごしました。

土曜日はイギリスの南部、フランスへの定期船で有名なドーバーという港町に行きました。

ここはホワイトクリフといってよくテレビコマーシャルにでてくる白い切り立った岸壁が続く景勝地があります。
日本でも好きで千葉の九十九里の屏風ヶ浦に繰り出していましたが、それをスケールアップさせたようなところです。

ケンブリッジの家を4:30に車で出ましたのでドーバーには7:30には着いていました。

丘の上に立って海を見下ろすとフランス、ベルギーあたりを行き来するフェリーが沢山見え、水平線にはフランスがちょこっと見えます。
潮の香りを嗅いでそんな景色を見ていると旅心が無性にくすぐられるのでした。

本当の目的は海ではなく、そこから車で1時間ほど行ったところにシシングハーストキャッスルガーデンという超有名庭園があり、どうしてもこの夏の花盛りのころに見てみたいとかねがね思っていたのです。

ここはナショナルトラストという保護団体が管理しており、数ある英国の庭園の中で最も知られた庭だといえます。

案内書によると来園者が一定数を超えると入場制限をするという、ノンビリした英国らしからぬ、いわば人気ラーメン店のようなことが書いてあります。

10時開店、いえ、開園ですので15分前には到着し余裕で入場できました。

入園後に車の中に忘れものをしたことを思い出して駐車場に戻ると、僅か30分くらいの間に駐車場は大混雑で、さらに大型バスも乗りつけてドサーッと人の波が次々に押し寄せてきます。

大型観光バスの一台は日本人観光客を満載しており、お姉さま、おばさま、おばあさまたちがプラダ、ルイビトン、グッチといったブランドバッグもしくはリュックを背負ってあたりを闊歩しています。
不思議なもので日本人男性の姿はほとんど見かけませんでした。

話を庭に戻すとさすがに超有名庭園だけあって造り、デザイン、植栽どれをとってもニクイほど気の利いたものでタメ息がでました。

色んな庭を見てまわっていますが、英国庭園と言ってもなかには「えっ、こんな?」とちょっとヒドい庭もあります。

そして今日日曜日は7:30に家を出てオックスフォードのさらに先にあるコッツウォルズ地方に繰り出しました。

目的はやはり庭です。

ここにもシシングハーストと並び称されるヒドコートマナーガーデンがあります。

ここも大盛況で、またまた大型観光バスが次々と乗りつけます。

さらにここは英国観光の人気スポットであるコッツウォルズにあるため、日本からのツアー客も大挙しておしかけてきます。

庭にて「ほほー」などと感心してバラを眺めていると「ちょっとー、これちょーキレイっ」という会話が聞こえてきて少々興ざめではあります。

ラベンダーの人気品種でここから名前を付けたと思われるヒドコートというのがあるので、さぞやラベンダーで溢れていることかと思いきや今の季節はバラが中心でラベンダーはオマケ程度でした。

コッツウォルズはとても風情のある田舎地方で、そんな有名庭園に行かずともそこらじゅうの民家が立派に手入れをされた庭を持っていて、それがこの地方の特産であるライムストーンという黄色味をおびた石で出来た家屋と絶妙のコンビネーションを醸しています。

車でドライブしているだけでも充分楽しめます。

そんなわけで南へ西へと大移動の週末で2日間の走行距離は1000キロを越えました。

一方シメるところはシメませんといけません。

なので昼食はサンドイッチの弁当を作って持参し、ポットに入れたお湯で紅茶を作って飲むといった節約を。

マナーハウスでスコーンと紅茶をいただきながら・・・なんてのは夢のまた夢でしょうか。