どうして「スバラシキ英国園芸ノススメ」なのか

ちょっと読んで 「あんまり面白くないなぁ」 と思った方。
騙されたと思ってしばしお付き合い下さい。

7年間の英国留学中にしたためたメールは300を越えました。
そしてこれが 「尻上がり的」 に面白くなっていくのです。

当初の初々しい苦学生の姿から、徐々に英国に馴染んでいく様子は100%ノンフィクションのリアルストーリー。

「スバラシキ英国園芸ノススメ」の旅はまだ始まったばかりです。

2012年2月27日月曜日

2001年03月03日 「おいはぎテレビ」




ここ数日は積もるほどでもないながら毎日小雪が舞って底冷えのする日々です。


さて先日「TVライセンス」なるものを104ポンド払いました。


ここ英国ではテレビを所有するとテレビライセンス料を払わなければならず、払わないでいて摘発を受けると罰金1000ポンドが課せられるといわれています。


いわばNHKの聴視料のようなものですが、罰則をみるとそれよりももっと厳しいようです。


払わなくてもなんら問題なくテレビは見れるのですが、強力電波探知機を備えた摘発部隊に踏み込まれてしっぽをつかまれるという話も聞きます。


昨年9月にテレビを買ってから、およそ半年粘ってきたのですが、「今日にでも踏み込まれるのでは?」とか「テレビを売った店が摘発部隊と結託して顧客情報を流しているのでは?」などとハラハラ疑心暗鬼な日々を過ごしていました。
そして104ポンドのライセンス料を払うか、1000ポンドの罰金かと葛藤した挙句、ついに年貢を納めたというわけです。


TVライセンスの会社からは「払わないと違法です」「罰金は1000ポンドです」「月々たった9ポンドのことです」とやいのやいのと手紙がしつこく来て腰を上げざるをえなくなったという経緯もありますが。


郵便局で104ポンドを払ったときの気持ちというのはなんともやり切れないものがありました。
学割とかはないのですね。


自信を持っていえるのは104ポンドの元は取れないということです。


ライセンス料に元もなにもないですが、とにかくあまり面白い番組があるわけでもないのでテレビのスイッチを入れない日も多いのです。
もっぱらラジオ派でして、家事をしながらなど「ながら」にはやはりラジオです。


テレビはBBC1、BBC2、ITV、チャンネル4、チャンネル5の計5チャンネルのみ。


しいてよく見るのは金曜日にあるガーデニング番組と映画くらいでしょうか。


映画も結構不便な時間にあることが多いので鑑賞を断念することもしばしばです。


サッカーはうんざりするほど中継がありますが、僕にとって肝心なラグビーはそれほどでもありません。
現在行われている6カ国対抗ラグビーはイングランドがホームグラウンドであるトイッケナムで行うゲームは地上波では中継しないという決まりがあるらしく、SKYという衛生放送でのみ中継されます。
その場合は大型のスクリーンがあるパブに出向いて観戦するしか方法がありません。


サッカーにはほとんど興味がないのですが、それでも先日行われたローマ対リバプールにはかの中田選手がフル出場したのでテレビの前に鎮座して観戦しました。
こういったヨーロッパの大舞台で一流の活躍をするというのは「お若いのに素晴らしい!!」と感動しました。
特に後半キャプテンが退場したあとには中田がローマのキャプテンを努めたわけで彼の活躍に大いに興奮しました。


サッカーは日本のプロ野球ニュースのように試合があった夜にはダイジェスト解説番組があるのですが、その司会はかのゲーリー・リネカーです。
名古屋グランパスにも在籍していたこともある彼ですが、英国では国民的英雄です。
そんなスゴイ人が名古屋にいたとは・・・。


因みにゲーリーは日本的な発音であってこちらでは「ガリー」に近い発音をします。
最初ガリー、ガリーというので誰のことかと思っていました。


「ハンニバル」公開直前にはテレビで「羊たちの沈黙」を放送したりと抜かりのない部分もあります。


でも104ポンドも絶対に見ていないよなぁとちょっとムッとしながらテレビのスイッチを入れる今日この頃です。

2012年2月20日月曜日

2001年02月19日 「おいしい生活」



最近ちょっと良いものを購入しました。


トースターです。


パンを食べる機会が多いながらトースターというものを持っておらず、これまでずっと生パンでした。
去年は学校の食堂にトースターがあったのですが、アパート暮らしを始めてからは「たまにはカリッとサクッといきたいねぇ」と思いながら半年間過ごしてきました。


そんなおり、近所の中古品「なんでも屋」に行ったときに目に飛び込んできたのがこのトースターでした。


お値段4ポンド也。


トースターの底には焦げたパンくずがまだへばりついていたりして、誰が使っていたのかも分からず不気味な部分もあったのですが、熱を発する機械だけに問題なかろう、キレイだ、と言い聞かせながらレジへと向かいました。


レジにてちゃんと動くかこの場でデモンストレーションしてくれと頼んでちゃんとふたつあるスロットの中が赤く熱くなるのを確認して4ポンドを払ってスキップしながら家路につきました。


故障品をつかまされてはなるまい、とデモを目の前で依頼するあたり随分とこちらの生活に染まってきた気がします。


そんなわけで最近はほんのり香ばしく温かいトーストにたっぷりとバターをぬって美味しく頂戴しています。


トースターを買ってから僕の食生活に変化がでてきました。


これまでの朝食は野菜が多く、手軽で腹持ちがするという観点から毎週日曜日の夕方にチキンクリームシチューを1週間分仕込んで、これを毎朝お椀に取り分けて温めてクロワッサンと食べていました。


シチューは良いとして、毎朝クロワッサンというのはやや健康面で不安があり、これに換えて美味しいシチューのお供にトーストを抜擢したわけであります。


シチューもさすがに毎日同じものを食べていると飽きてきてしまい、最近すっかり定着してきたのが伝統的英国風朝食です。


これはベーコン、ソーセージ、目玉焼き、焼きトマト、焼きマッシュルームなどを大きな皿に盛り付けトーストを添え、さらにその上からベイクドビーンズという大豆のトマトソースのようなものをかけて食べるものです。
ボリューム満点でウマイです。
恐らく2年前であればそれほど美味いと思わなかったでしょうが、最近はどうやら味覚もこちら風に染まってきたようです。


突然開眼した理由はローストティンというオーブンを使ってロースト料理をつくるときに使う金属の専用皿を買ってからオーブンを活用するようになったからです。


この皿にあとで洗うのが楽なようにアルミフォイルを敷いて、その上にソーセージ、ベーコン、トマト、マッシュルームをのせて15~20分オーブンに入れれば出来上がりです。


その間に目玉焼きとトーストを作り、ベークドビーンズを電子レンジで温めて絶妙のタイミングでそれらすべてをひとつの皿にのせれば完成です。


肉体労働だけに身体が資本。
朝からモリモリ食べています。


これにとどまらずオーブンはその活躍の場を広げ、キッパーとローストラムといった純英国料理にも食卓に登場するようになりました。


キッパーというのはアパートの隣人であるビル君に勧められて食べてみたのがきっかけですが、その美味さに脱帽し、最近はちょっとやみつきです。


辞書を引いてみると燻製のニシンであるとのことですが、とても怪しげな黄色をしており、そのままオーブンに入れれば出来上がりです。


これの上にバターをのせてトーストと食べるのですが魚とパンがこれほど合うとは意外です。


本来は朝食に供されるべき食材らしいのですが、僕は週末のお昼などによく食べます。


さらにウレシイのはお値段がお手頃だということで一腹がざっと70円ほどでしょうか。


早い、安い、美味いとなにやら牛丼のようなやつです。


スーパーマーケットに買物に行くと牛、豚、ラムなどの肉の塊がドドーンと売られていて、見かけるたびに「うー、かぶりつきたい」という衝動に駆られていたのですが、このローストティンを買ったことによって夢が現実のものとなりました。


パブにおいてはサンデーローストといって日曜日のお昼にこの特別料理を食べるのが伝統的な風習のようで、僕も何回かビーフ、ポーク、ターキー、ラムといったローストを試したのですが、個人的に一番美味いと思ったのがラムでした。


ラムは子羊の肉でちょっとクセがあるのでミントソース、マスタードなどを使って食べるのですが、程よい歯ごたえ、独特の風味、ミントソースとの相性などがとても好きで、いつか自分で作ってお腹を満たしたいと思っていました。


スーパーで堂々850グラムの塊を買ってきて、ローストティンに据えて周りにタマネギ、ニンニク、マッシュルーム、ローズマリーを添えて80分間190度でじっくりとローストします。


出来上がるとこれを切り分けて、マッシュドポテト、ニンジン、グリーンピースといった温野菜を添えてグレービーソースをかけて完成。


これまた感動的な美味さで、一人で唸りながら肉をほおばりました。


パブで食べるローストよりも美味しい気がしたのは手前ミソってやつでしょうか。
850グラムもありますので、2食分楽しめます。


飽きないかという心配は御無用。
なんのなんのです。


白いゴハンを炊いて日本的な食事もしています。
自炊が美味しくかつ安上がりで楽しいので最近はよっぽどのことがないと外では食べようとは思わなくなりました。


自分でもここまで自炊が苦にならないとは意外でしたが文句は言いますまい。
しばし今ここでしか食べられないものをトコトン食べておこうと考えております。


こんなことを書いておきながら最後の晩餐で何が食べたいかと問われれば寿司になっちゃうのですが。


今月は28日までですから、今月も残り10日ですね。


早いものです。


どうぞお風邪などひかれませんようお元気でお過ごしください。

2012年2月15日水曜日

2001年02月03日 「2月」



早いもので2001年も1ヶ月が経ちました。


私にとっては会社を辞めて丸2年という節目の月でした。


あれから2年というのが長いような短いような、とても不思議な感覚です。


東京で植木屋を手伝っていたのは遠い昔のような気もすれば英国に来たのはついこの前という感じもします。


昨日は高木潅木セクションのリーダーだったアンディが一身上の都合ということで植物園を辞めていきました。


彼は30代後半で細長い顔に突き出た尖ったあごのアメリカンコミックから抜け出してきたような風貌の良いオトコで、まさに樹のスペシャリストでした。
日本でも最近は樹木医という職業を耳にしますが彼は植物園内の樹木の健康状態を把握して的確にさまざまな処置をほどこしていました。


Tree Surgeryといって文字通りチェーンソーをもって病気の部分、怪我をしている部分をバッサバッサと切ったりします。


ここ英国ではチェーンソーを扱うのには免許が必要で彼は植物園内で数少ない免許保有者で知識、経験も豊富で皆からの信頼も厚かったわけです。


彼がチェーンソーを扱うのはカッコが良くて、見とれることもしばしばでした。


服装も免許にしたがって定められていて、足元は安全靴よりも丈夫なチェーンソーブーツ、ズボンも特殊繊維入り、特殊な手袋、フェイスガード、耳当てつきのヘルメットなど。


ちょっと待てよ、と思ったのが日本で植木屋にいたときのこと。


とあるお宅の庭に枕木を置くことになり、親方に言われて安全面で注意すべきことなどの説明も装備もなくチェーンソーを使っていたのです。
飛んでくるおがくずを目に入らぬように目を細めたりしていましたが、まさに無防備でした。
「ウオッ、右足がちょんぎれたぁ」ってなことがあってもおかしくなかった状況で、今思えば恐ろしいことをしていたものです。


植木屋の足元は地下足袋で、これはこれで木登りの際に足先に木の枝の感覚が伝わってきたり、グリップが良かったりとメリットはあるのですが安全面ではちょっと疑問も残ります。
そしてはしごを使い、あとは木にするすると登ります。


英国での木登りは登山のようにハーネスとロープで安全を確保しながら徐々に登りつめます。
最初は見ていてまどろっこしいと思っていましたが、とても合理的で落下の危険もなく、最近はこうでないと危ないと思うようになりました。


仕事に無理がないというのが基本的な考え方のようです。


話を戻すと、昨日は15時で皆仕事を切り上げてホールで彼の送別会がありました。
ザッと30人ほどのスタッフが集まり、紅茶にビスケットをかじりながら立ち話をしたあとに植物園の最高責任者であるプロフェッサーがはなむけの言葉を述べ、最後にアンディが挨拶をしました。


「ケンブリッジを本当は去りたくない。皆と仕事ができてとても楽しかった。とても感謝している・・・」と簡単に挨拶しましたが彼の目は赤く腫れていました。


よく卒業式で泣くのは日本だけなどと聞きますが、植物園を愛し、皆から慕われたアンディの目に涙が溢れたのはとてもよく理解できましたし、どこでも溢れる感情を表現するのは一緒だなぁと思ってみていました。


一身上の都合というのは聞くと彼はそもそもイングランド北東部のスコットランドに程近いニューカッスルの出身で、彼の奥さんがケンブリッジにどうしても馴染めなくて帰りたいという彼女の希望に沿った決断だったようでした。


自然に溢れた人情味ある北の出身であれば、どこかよそ行き顔のケンブリッジに馴染めないというのは理解できる気がしました。


今日から6カ国対抗ラグビーが始まります。
テレビでの中継もあるので、この週末は自宅にてビールを飲みながら観戦して過ごすつもりです。


寒い毎日かと思いますがどうぞお元気で。

2012年2月12日日曜日

2001年01月28日 「勤労学生より」



東京も3年振りの大雪だとのことで相当混乱しているようですね。


こちらも相変わらず寒いです。
雪こそ降っていませんが0℃を挟んでの毎日です。


植物園では各セクションを定期的に移るのですが、来週から外働きから温室の担当に変わるのでなんともグッドタイミングだと喜んでいます。
温室は気温が常に15度前後に保たれているので寒いということはありません。
湿度も意図的に上げられているので、さながら南国にいるかのようでもあります。


寒いとことのほか体力を消耗すると気付かされます。
1日を通して首をすぼめたりして寒さに抵抗するため全身に力が入っているようで、常に腹筋あたりに緊張感があります。


お茶の休憩時間などに室内に戻ると全身が弛緩されますが、それでも温泉につかるような暖かさではありません。


寒いです。


アパートにはシャワーのみで湯船につかることはなく、自室の電気ヒーターは電力だけイッチョ前に消費する割りにさっぱり暖まりませんので、靴下、靴を履いて、フリースジャケットを2枚重ねし、膝には湯たんぽを置いて暖をとっています。


それにしても安普請で窓からかすかに吹き込む隙間風に耐えながら生活しています。


寒いのは仕方がないとしても、1日のなかのどこかで暖かい体験をしないとかなり辛いというか、ネガティブな気持ちになります。


最近はアルコールを飲んで湯たんぽを抱えて寝るというのが寒さを忘れる手段になってきています。


一方、春は確実に近づいているようすで球根がここそこに芽を出し、落葉樹は硬い蕾をつけていますし、日の出7:45日の入り16:43と日照時間も徐々に延びていっています。
冬至のころピーク時には16時前には太陽が姿を消していましたので大進歩です。


そういえば土曜日に電話代の振込みに銀行へ行ってきました。
もと銀行員なので英国の銀行がどうなっているのかは結構興味のあるところです。


銀行は全ての支店で土曜営業しているわけではなく、市街地、繁華街の一部に限って時間を短縮して営業しているので平日は仕事がある僕としては大変助かります。


通帳というものはなくて月1回送られてくるステートメントという明細書のみ。


科目も普通預金ではなく当座預金でキャッシュカード以外にも小切手帳をくれます。
初めて自分の小切手を切ったときにはとてもエラくなった気分だったのを覚えています。


ときどき自分の口座から誤って引き落とされていることがあるので、買物のときのレシートとステートメントを突合させて消し込んでいくという作業は自分の責任です。


先月のスーパーで買物をしたといわれるもので手元にレシートが無く腑に落ちない41ポンドの買物があったので、請求書に自分のサインがあるのか現在調査を依頼していますが、請求書のコピーを取り寄せるのに6~8週間掛かるというので気長に待っています。


あれ?と思ったら主張しないといけません。


口座を開設するのは結構大変で、僕はヨークで学校にいろいろ書類など揃えてもらってやっとのことで開設できたのですが、ケンブリッジで植物園に一番近い銀行に口座を開こうと思ったら、あれこれとフクザツな書類を揃えろと言われ、「ウチではお断り」ってことだなと察して諦めました。


現在取引のある銀行に一旦口座を持った後は、どういうわけか優良顧客と思われたのかいろんなセールスを受けました。


この前はISAという高金利、非課税の商品を勧められました。


一年での非課税受け入れ上限額が3000ポンドで年利6.75%とのことで、一年で利息が200ポンドもつくので即申し込みました。
利息でちょっとはマシなものでも食べられそうだったので有難い申し出です。


あるときは僕のキャッシュカードを一瞥して「これは新規のお客様に発行しているもので、今日はこれをVISA付きのカードに切り換えておきます。」と言われて怪しい一見の東洋人客から優良顧客様にたちまち大変身です。


その担当者と話していて、僕の口座には当座貸し越し枠が1500ポンド、キャッシュローン15000ポンドも設定されていることが判明し、「オイオイ、大丈夫かよぉ」とこちらが心配になりました。


年収以上のキャッシュローン枠ですよ。


諸手続きのなかで色んな質問をされるのですが、いつも戸惑うのが職業を訊かれたとき。


学生でもあり、勤労者でもあり、何なんだろうオレは?と難しいところです。


学生証も持っていれば、定期収入も僅かながらある。


まぁ勤労学生ってことです、と説明します。


何かしら罪を犯して新聞沙汰になったらどういう風に自分の肩書きが載るのかなどと想像した土曜日の昼下がりでした。

2012年2月2日木曜日

2001年01月14日 「ジョン」


ジョンというのは何も犬の名前ではございません。

植物園に勤めるスタッフでなんと16歳からこの植物園に勤めているという、植物分類花壇セクションのリーダーで僕と同じ年の独身英国人です。

彼の天性のユニークでオープンな性格と歳が同じだということで仲良くなりました。

彼のユニークなことは、他の人の趣味や主張に迎合することなく、我が趣味、主張を貫くことです。

しかもそれがお人柄なのでしょう、まったくイヤミがないというかむしろ僕は好感を持ってみています。
オモシロイやつだな、と。

彼の趣味の代表は「天気」でしょうか。
それはもう趣味の域を超えライフワークといえるかもしれません。

一旦天気の話になると止まりません。

雲のこと、気温のこと、降水量のことなど、特に大雨、豪雨、雷、雪、最低・最高気温など何かに特化した異常気象に尋常ならぬ興味を示します。
もともとは植物園内に百葉箱があり日々温度や知湿度などの基本的な気象要素を記録する係になったことに端を発しているようです。

地声がとても大きくて、それだけで裏表のないストレートな性格だと想像できるのですが、その大声で延々と天気の話を聞かされるとドッと疲れてしまいます。

他にも彼の趣味は、旅行、ワイン、チーズ、買物、株などで、買物といってもブランド品を買い漁るのではなく、近所のスーパーのポイントを貯めてそれを使って旅行をしたりするのです。

それはコツコツと貯めるといった感じではなく、車のない若手トレーニーを相手に「車でスーパーまで買物に付き合うからポイントはオレに頂戴ね。」という交渉をして一度に3人くらいの引き連れてスーパーに行くという貪欲さです。
この発想がすでにユニークというか笑っちゃうわけです。

それ以外は質素なもので着るものなどにも頓着しません。

この前ジョンが「あのサ、スエーデンのカルーナというところに氷で出来たホテルがあって、それがスゴク良いらしいんだけど興味ある?」と聞くので「あるある」と答えたところ、彼の家でパンフレットを見ながら一緒に検討しようということになりました。

その日の夕方植物園で仕事を終えると「何時頃来る?」と聞くので「そうねぇ、19:30頃かなぁ。」というと「分かった、食事も用意するから。遅れても良いけど19:30より早く来ないでね。」と不思議なことを言われました。

この辺もジョンらしいところです。

僕は約束の19:30よりも早まることなく手土産の定番であるワインを持って彼の家に到着しました。

飼い犬のBodo(ボードー)が狂ったように大歓迎してくれました。

家には彼の母親と妹がいてしばし雑談を交わしたのですが、二人ともジョン同様に声が大きいので笑ってしまいました。

1時間もしたでしょうか、そろそろお腹が減ったなぁと思った矢先にタイミングよくジョンが「マサヤ、ハギス食べたことある?」といいます。

ハギスはスコットランド料理ですがクセがあるので嫌いだという人も多いのです。
僕は結構好きだと伝えると、おもむろに袋に書いてある調理法を読み始めました。
それは単にお湯で茹でるだけのはず。

「ナニナニ、あーナルホド、お湯に入れて60分茹でるのかぁ。」ってこれから更に1時間ってことか?と空腹感がつのっていたのでちょっとカチンときました。

ことはそれで終らずさらに続きます。

付け合せのポテトを茹でているときにも会話に熱中して時間を忘れたためマッシュドポテトでもないのにマッシュしたかのようにイモの原型をとどめていません。

なんかマズそうなのです。

途中で旅番組でアイスホテルについてやっていたのでビデオに撮ってあるのでそれを見ようということになったのですが、そもそも整理整頓とは無縁の性格のようでビデオのどの部分にそれが録画されているのか自分でも分からなくなっていました。

大笑いしたのは、その旅番組を探すためにビデオを早送りしたのですが、そこに映っていたのはほとんどが「天気予報」だったことです。

天気予報を録画してみるっていうその天気オタク度に頭が下がりました。

早回ししながらも、最近の英国の異常気象を伝える場面になるたびに早送りを止めて「ホラ、これがこの前大風がふいた時サ。分かるだろ、この低気圧がさ・・・」と延々と解説を加えるのです。

お母さんも妹さんも頷きながら聞いています。
どうやらとてもユニークなお宅にお邪魔したみたいです。
お腹減ってないのかなぁ。

アイスホテルはその名のとおりホテルそのものが氷で出来ていて、マイナス××度というなか氷でできたベッドにトナカイの毛皮をひいて寝袋でねるというもので、追加オプションで空港からは犬ぞりでホテルまで行けるのだとか。

普段節約家で好きな言葉が「バーゲン」というジョンが選ぶ旅なので本格的な安上がりな旅を想像していたのですが、そのツアーは1週間で総額1000ポンドもします。

「ウエッ、高い!」とおよび腰になっていたら「どうよ、マサヤ。いいだろ?」とウインクします。

「思ったより高いんじゃない、コレ」「そう、ちょっと高いんだ。でもサ全て氷でできたホテルに泊まって、今の時期昼でも薄暗いっていう極地の体験ができるんだからサ。オーロラも見れるかもしれないし、人生何度もある旅じゃないヨ」なんて会話があってどこかスッキリしないながらも話をすすめることにしたのでした。

そんなやり取りの末、ようやく待ちに待った夕食にありつきました。

時間はなんと22時15分。

家にきてからおよそ3時間たって食事になると分かっていれば何か軽く食べてきたのに。
呆れるよりはむしろジョンらしくて笑ってしまいましたが。

彼はいつか日本にも来たいと言っています。

ここにも彼の壮大な計画がありました。

それはスーパーのポイントを貯めてくるというもの。
僕も何度か一緒に行ったことがありますが、彼はスーパーに到着するとまずエントランス脇にある専用マシーンで「今日のお買い得」「今日のボーナスポイント商品」といった情報を取り出して、どうやったら効率的にポイントを稼げるか目処をつけます。

笑ってしまうのはこれをスーパーの店員よろしく僕らに売り込んでくることです。

「ハムいらない?ハムは今日だけ200ポイントボーナスがつくんだけど。」とすり寄ってきますので、必要のあるものであれば協力しますがそうでなければ無視です。



彼も一緒に買物をするのですが、その買い方も徹底していて笑ってしまいます。

夜のスーパーは賞味期限切れが迫っているものに赤札が付けられて安くなります。
彼の買物用の押し車(トローリー)には赤札商品が満載です。

嬉しそうに僕に見せたのはタラのすり身ペーストでなんと10ペンス(18円)で、本日賞味期限の赤札商品でした。

よくこんなもの探してくるなぁと感心してしまいます。

こちらのスーパーでよくあるのが「buy 1 get 1 free」というもので「ひとつ買えば次のひとつはオマケ」みないなもので、これと赤札商品をうまく組み合わせると節約効果は高く、彼はそのあたりも抜け目がありません。

彼に今日までの成果を尋ねると「パリ往復分くらいはある」と胸を張って言っていましたが、彼がマイレージを使って来日するのはいつの日でしょうか・・・。

そんなユニーク英国人ジョンのお話でした。