どうして「スバラシキ英国園芸ノススメ」なのか

ちょっと読んで 「あんまり面白くないなぁ」 と思った方。
騙されたと思ってしばしお付き合い下さい。

7年間の英国留学中にしたためたメールは300を越えました。
そしてこれが 「尻上がり的」 に面白くなっていくのです。

当初の初々しい苦学生の姿から、徐々に英国に馴染んでいく様子は100%ノンフィクションのリアルストーリー。

「スバラシキ英国園芸ノススメ」の旅はまだ始まったばかりです。

2012年1月22日日曜日

2001年01月07日 「年末年始」


気が付いてみればアッという間に新年も1週間経ちました。



暮れに降った雪は元旦に少々気温が上がったのと、雨が降ったため跡形もなく消え去ってしまいました。
どんどん下がる気温に恐れおののいていたのでホッとしています。
冬至以降僅かながら日の長さも着実に延びてきているようで春はまだ遠いながらもどことなくウキウキしてきます。
早く芝生の上でゴロゴロしながらビールを飲みたいものです。


クリスマス、正月と休むことなく通常通りに植物園で仕事をしていましたが、ちょっとくらいはクリスマスのスペシャルな気分を味わおうとちょっとだけ贅沢を試みました。


いつもは1本500円前後のワインですが奮発して3500円のワインを飲んでみたり、いつもはセインスベリーという庶民的なスーパーを利用していますがマークスアンドスペンサーといったチョイ高級スーパーでラム肉を買うなどささやかなスペシャルを楽しみました。


クリスマスといえば七面鳥でしょうけど、僕一人ではとても食べきれませんのでラム肉になりました。
七面鳥はニワトリの比ではない大きさで、冷凍の七面鳥はバスケットボールくらいの大きさがあり、専用の大きなアルミホイルも売っていてアルミホイルの幅が1メートルもあります。


大晦日の夕方から植物園のなかでスタッフのジョンとマークと僕の3人で焚き火をして過ごしましたがこれが結構楽しかったです。


ジョンが「夕食は心配するな。焚き火でバーベキューするから。」と言われビールとワインを持って集合しました。


しかしバーベキューとはいってもソーセージを一人当たり3本焼いてそれをパンにはさむだけの英国人好みの質素なものです。


しかも1本目は焚き火の薪のやまが崩れてバーベーキューの網を直撃しソーセージは見事に灰の中に埋もれてしまう大失態。


気を取り直して2本目3本目といきましたが火力が強いのと会話に夢中になるためアッという間にソーセージは真っ黒になってしまい、お世辞にも美味しいものではありませんでした。


途中から大粒の雨が降ってきて、簡単な雨よけを丸太とトタンでつくって雨に耐えながら酒をのみ更に話が弾みました。


酒がすすみ、徐々に良い気持ちになってきて酔った勢いで3人で深夜の植物園をわがもの顔で闊歩し、まだ厚い氷のはった池の上に立てるかと度胸試しをしたり、植物園の外周を流れる小川にボートを浮かべ一人が乗り込み残り二人がロープで引いて遊んだり、さらにはそのボートを今度は陸に上げて園内の雨にぬかった歩道をドロだらけになりながら押して滑らせたりと、まぁメチャクチャでした。


23時には解散したのですが相当飲んだためフラフラで自宅に戻りそのまま眠ってしまいました。


ケンブリッジで新年を迎える瞬間とはどんなものかと興味があったのですが、日付が変わる前に既に正体不明で気が付いたときには既に21世紀に突入していました。


元旦の植物園は閉園で一般開放されていないので、最低限の3人のスタッフで植物の世話をしました。


ジョンもいて「昼飯は昨晩の焚き火の残り火で楽しまないか?食材は心配するなよ。」というので、あまり期待せずにいると昨晩と全く同じソーセージとパンでした。


しかもジョンが「悪いけど今日のパンはあんまり良くないんだ。」というのでどういう風に良くないのかと思ったら冷凍したパンを解凍したもので一部はべチョべチョ、一部は「おふ」のように乾燥して硬くなったスゴイものでしたが今更驚きませんでした。


それにたっぷりケチャップをかけて缶ビールを飲みながら焚き火にあたり、なんともノンビリしたお正月でした。


振り返ると寂しい思いもせずまずまず楽しい年末年始だった気がします。





2012年1月14日土曜日

2000年12月31日 「御挨拶」



いよいよ大晦日です。


寒いです。


木曜日に雪が降ったあともその積もった雪が解けることもなく寒い日が続いています。


ナント昨晩は一部の地域でマイナス11度まで下がったらしく、ラジオではケンブリッジの日中の最高気温も0度もしくはマイナス1度などと言っています。


もはや倹約、節約などと悠長なことは言っておられず寝ている間も電気だけくってあまり効かないラジエーターをつけているのですが、それでも寒くて靴下を履いてフリースの帽子をかぶって寝ています。
頭から奪われる熱というのもかなりのものなのでしょう。
帽子ひとつで随分暖かく感じます。


夕食に牛肉を焼いたのですが、換気をすると部屋が寒くなるのに加えて料理も片っ端から冷めてしまうので、換気は無視して煙に包まれながら食事をしました。


植物園への道も凍ってスケートリンク状態でしたので慎重に自転車を操り、どうにか今日のお勤めをこなしてきました。


現在任されている温室は常に15~20度に温度が保たれていて、一旦働き始めるとすぐに身体が暖まってティーシャツ一枚になり天国のようです。


植物園のキューレーターであるティムに「年末年始はハンガリーに行くのでその間猫の面倒をみてくれないか。」と頼まれ、植物園の中に建つコテッジに住むティムの家に2匹のクロネコの面倒をみにいくことも日課です。
猫たちとちょっと遊びたいところですが、僕は猫アレルギーなのでエサをやってサッサと帰ります。


ティムの家は温室のボイラーと熱源をともにしているため24時間暖かいのです。


フト自分の部屋の寒さを思い出し悔しくなりました。というのはこの暖かさを今享受しているのは人間ではなくネコ様だからです。


そのネコ様が召しあがるのは缶詰とフレークタイプの2種類のキャットフード。
フレークは「Go Cat」というもので袋には「ビタミンAが視力を守り、カルシウムが強い骨と歯をはぐくみ、シャキシャキした食感がネコの歯を丈夫にし・・・」とあります。


ネコ2匹で豪邸を独占し、人間の専用飼育係(この場合、僕)を擁し、暖房がきいて、栄養バランスの良い食事をして・・・と「なにやらオレよりもよっぽど良い暮らしじゃん。何がゴーキャットじゃっ!」と本気で嫉妬してしまいました。


ティムが戻るのは1月2日。
それまでネコ様のお世話は続きます。
ネコアレルギーだというのに。


日本との時差は現在9時間。


そちらで新年を迎える頃こちらはまだ31日15時で植物園にてバタバタしていると思います。


天気次第ですが今晩は植物園内で丸太などを燃やして焚き火をしようとジョンというスタッフと話をしています。
ワインやビールを持寄ってトコトン飲もうじゃないのということで楽しみです。


元旦のいつもの時間通りに植物の世話とネコの世話をします。


ラジオでは2001年へのカウントダウンなど大騒ぎですが、そんなことはどこ吹く風といった感じで平常心にて淡々と21世紀を迎えます。


2001年はヘビ年ということで僕は年男です。


36歳、まがうかたなきオッサンですが、新たなる21世紀は庭師として開花することを目標に日々一歩一歩階段を上がっていきたいと思います。


どうぞ2001年もよろしくお願い申し上げます。


21世紀問題や、大晦日、元旦のメールは混み合うのだそうですので混乱を避けて一足早く暮れの御挨拶と新年のお喜びを申し上げる次第です。

2012年1月11日水曜日

2000年12月29日 「異常気象」



昨日、一昨日と寒い寒いとは思っていたのですが、ついに昨夜未明より雪が降りはじめ15~20センチ積もりました。


今朝5時半に起きて外を見たときにはあたり一面雪化粧でした。
これはイングランド東部にあるケンブリッジにして珍しいこととのこと。


いつもより30分早く植物園に行ってまだ暗い植物園を一人歩いてまわりました。


今日は平日ながらクリスマス、年末年始休暇中ということもあり予定されている出勤メンバーは7人だけ。


さらに定刻に植物園にいたのは僕一人だけで、皆「雪で車のバッテリーがあがった」「雪で車が動かない」など、雪を理由に悠然と悪びれる様子もなく遅刻してきます。
日本でサラリーマンとして10年間過ごしてきた者としては、雪ならそれを計算して家を出ろという教育を受けてきたので、改めて英国のノンビリした様子に文化の違いを感じました。


あたり一面の銀世界、しかも水をうったように静かな植物園というのはどこか浮世離れしていて神秘的ですらありました。
ただ静寂は開園までで、開園と同時に結構な人が押し寄せて雪景色を楽しんでいました。


園内では各セクションのリーダーがトランシーバーを持って連絡を取り合っています。


屋外にいるスタッフもいるので内線電話というわけにもいかないわけです。


普段ぼくのようなトレーニースタッフにはあまり関係ないのですが、申し上げたように今日は7人で植物園を運営し、僕は温室を任されていたのでトランシーバーを渡されました。


トランシーバーの音が良くないこともあって聞き取りずらいので僕はあまり好きではありません。


「もう一度言ってください。」と言うのも1回、2回が限界ですし、いつもそうしていると信頼を失いそうです。


かといって分かったフリをするのも意味がありません。


トランシーバーの会話はトランシーバーを持っている全ての人の耳にはいるのでそのへんも緊張感を煽ります。


まぁ内容的には大した内容でないことが多く、例えば、
「アー、BG5からBG10へ。ドウゾ。」
「こちらBG10。ドウゾ。」
「アー、間もなく温室の扉の鍵を開けるけど、準備はどの程度進んでいますか。ドウゾ。」
「全く問題無いッス。ドウゾ。」
といった他愛のないものです。
いざトランシーバーを渡されるとイッチョ前のデキるスタッフになった気分です。


と、マジメに仕事をしていそうですが、一通り水遣りをすませると皆大してやる仕事も少なかったため、カメラ片手に植物園内を散策したり、雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりしてノンビリしたものでした。


一般の来園者がいるのをよそにスタッフが真剣に雪合戦に興じるというのも御愛嬌でしょうか。


いつも節約してなかなか自分の部屋の電気ラジエーターのスイッチを入れないのですが、さすがにこの寒さにはそんなことを言っておられず、寝ている間もつけっぱなしにしました。
それでも部屋で吐く息が白く危険な感じがします。


そんな2000年残り3日の雪便りでした。

2012年1月5日木曜日

2000年12月26日 「ボクサー」



本日は12月26日。
ボクシングデーという国民の休日で世の中はまだまだお休みです。


さすがボクシングの発祥の国イギリスだけあってこの日は国民全てがボクサーと化します。


新年を迎えるニューヨークで誰かれ構わずキスをするのと同様、今日は誰かれ構わず殴って良いということになっているようで、ヘッドギア、マウスピース、グローブといったいでたちの人が目立ちます。
僕も早速体格の良いおばさんから2発食らってしまいました・・・というのがボクシングデーかなと思ってしまいます。


ボクシングデーって何でしょう?


そもそもはクリスマスプレゼントの箱(box)を開ける日ということに由来するようですが、とにかく街はまだお休みモードです。


昨日のクリスマスにケンブリッジの街の様子を観察してきましたが、見事なほど閑散としていて廃墟のようでした。


歩いているのは東洋人の観光客程度で、店は軒並み閉まっていて、昼の2時間だけパブが時間限定で開店しビールが飲めるといった程度でしょうか。


街に出ても寂しいだけで、加えて今日の最高気温が4度などといっており、ひょっとするとホワイトクリスマスになるかもしれず自宅でノンビリするのが正しいと申せましょう。


ボクシングデーの今日はマクドナルド、スターバックス、バーガーキングなどのアメリカ資本のファストフード店と一握りの店が開いており、人出は昨日よりも多く活気がありました。


多くの人は明日からあちこちで始まるクリスマスセールの下見兼ウィンドウショッピングを楽しんでいるようでした。


僕はまったくの平常通り、植物園にて水をやっていました。


結構大きな温室があり熱帯植物の世話が欠かせないのです。


熱帯の環境により近づけるためにヒーターで15度くらいに保たれています。
水をやると湿度もあがり、熱帯のそれに近づくので寒さの厳しい外とは別世界でちょっとした海外旅行をしたような気になり楽しいものです。


温度をあと10度ほどあげたほうがより熱帯らしいのでしょうが、それにはコストとの兼ね合いがあります。


あまり植物にとって理想的な環境に近づけると育ち過ぎてしまって温室という限られたスペースで育てるにはその辺のコントロールも考慮せねばなりません。


生かさぬよう、殺さぬようといったかんじでしょうか。
ちょっと可愛そうな気もします。


動物園で飼育係がライオンに襲われたというニュースを時々耳にすることがありますが、植物園では植物に襲われることはなさそうで胸をなでおろしています。
しかし全く安全かといえば否で、鋭いトゲが突き出した植物もあれば、毒性の強い植物もあります。
芝刈機など機械を使っていてケガをすることもあえるでしょう。


安全のために植物園ではつま先に鉄板の入った安全靴の着用が義務付けられています。
日本の植木屋で素足感覚の地下足袋を履いていたというのは英国の安全基準に照らすととんでもないということになりますね。


確かに作業中に丸太が足に落ちるという経験を日本でも英国でもしましたが、コチラでは涼しい顔、アチラでは悶絶でした。


植木屋でキョウチクトウを剪定して、切ったものを担いでトラックに積む作業をしていて樹液のついた首周りがものすごくかぶれてニッチもサッチもいかなくなったことがありました。
植物園では一番初めにそういった毒性のある植物に関しての講義がきちんとあり安全に関する認識の違いを感じます。


そんなわけでクリスマスのつつがなく過ぎてあとは21世紀を迎えるのみといったところです。