どうして「スバラシキ英国園芸ノススメ」なのか

ちょっと読んで 「あんまり面白くないなぁ」 と思った方。
騙されたと思ってしばしお付き合い下さい。

7年間の英国留学中にしたためたメールは300を越えました。
そしてこれが 「尻上がり的」 に面白くなっていくのです。

当初の初々しい苦学生の姿から、徐々に英国に馴染んでいく様子は100%ノンフィクションのリアルストーリー。

「スバラシキ英国園芸ノススメ」の旅はまだ始まったばかりです。

2011年7月2日土曜日

2000年04月19日 「スコットランド旅日記」

4月8日から5月1日まで約3週間のイースター休暇で、寮生はほぼ全員帰省してキャンパスはヒッソリと静まりかえっています。
僕は帰省しようもなく、このまとまった休みを有効活用しようと計画を立てています。

まずは8日から13日までモルトウイスキーで有名なスコットランド北部のハイランド地方をレンタカーで気ままにまわってきました。
僅か6日間でしたが、スコットランドへは初めてだったので全てが目新しく有意義でした。
色々とハプニングがあり話題に事欠かないのですがその全てを記すと大変な長さになってしまうので、エッセンスを取り出してお送りします。

基本コンセプトとしては「スコットランドらしい緩やかな山並みをドライブして途中庭園を見てまわる」で、はずせないのはエジンバラの王立植物園とゴルフの聖地セントアンドリュース・オールドコースの二箇所ということだけ決めて出発しました。

ヨークからエジンバラまでは電車、その先はレンタカーを借りるというプランです。
エジンバラはスコットランドの首都だけあって十分な都会でした。
堂々とした歴史を感じさせる街並みの一方でこりゃ東京か?というモダンな商業ビルもあってオノボリ気分を満喫しました。

宿は不本意ながら自分の足で探す時間がなくて観光案内所で「安けりゃ安いほうがイイ」といって紹介されたのが一泊12ポンドのホステルでした。
しかし案内所では紹介手数料5ポンドをシッカリ取られ「なんで12ポンドの宿に泊まるのに5ポンドも払わにゃならんのか!?」と憤懣やるかたない気分になりました。

このホステルでの滞在は「ステキ」な経験となりました。
まずはチェックインして部屋に通されると、その部屋は二段ベッドが8個備わったいわゆるタコ部屋です。
僕よりも先にチェックインしたと思しき人たちの大きなリュックサックがベッドの上に置いてありました。
僕も外出の際リュックを置いていきたかったのですが、パソコンを持ってきてしまったので部屋に置いていくわけにも行かず、大きなリュックを背負ったまま市内を散策することになったのでした。

ガイドブックによる事前の調査で市内の日本レストラン「ラーメンショップ・タンポポ」で親子丼を食べると腹を決めていました。
しかし実際に店に行ってみると、オヤジが暇そうに新聞を読んでいるのが外から見えてちょっと心変わりしてしまいました。
そのままタンポポを通過して重いリュックサックを背負って右往左往した挙句、またまたフィッシュアンドチップスに落ち着いたのでした。

ひとしきり街を歩いてホステルに戻ると部屋はほぼ満員になっていました。
男だけの部屋かと思いきや若いオネエちゃんグループがいたり、失業して家出をしてきたかような年配のオジサンもいます。
なんとも落ち着かなかったのですが疲れていたので早々に就寝しました。
夜中はいびき、歯ぎしり、寝言の大合唱。幸運にも耳栓をもっていたのでそこそこ寝れましたが6時半に部屋で一番に起きてホステルをあとにしました。

レンタカーは予めヨークで予約してきたので問題はないはずでしたが、実際は問題がありました。
予約のときは担当のオニイちゃんが「駅前で便利ですよぉ」なんてことを言っていたのに、それは駅は駅でもメインの大きな駅ではなく、徒歩25分もかかるさびれた駅の裏にありました。
雨の中25分トボトボと歩きながら「今度あのオニイちゃんに会ったらなんと文句を言ってやろうか」と考えていたら到着しました。

チェックインすると「お客様の予約した車はあいにく御用意できていませんが1クラス上の車を追加料金なしでご利用いただけます」とのこと。
なんで予約した車が用意できていないなんてことを平気で言うのでしょうか。
予約した意味がありません。
でも彼らの怠慢のおかげで1クラス上の韓国車「現代」でスコットランドをまわることになりました。

エジンバラからセントアンドリュース、クリーフ、オーバン、フォートウイリアムス、ネス湖、インバネス、バラター、パースとまわったのですが、言い換えると一旦東海岸にでてスコットランドを横断して西海岸へ、さらに北上しネス湖でまた今度は東海岸に抜け、のち南下しウイスキー蒸留所のひしめくあたりをまわって帰ってきたということになります。

ハイランドは緩やかな山並みがどこまでも続く丘陵地帯で、あたりには森、湖がばかりです。
北上するにつれ天候も厳しくなり、ときおり雪も降りました。景色を見ていて感じるのは日本との共通点です。
ところどころ北海道のようであり、関越道でスキーに行くときに見かける山並みのようであり、はたまた信州のようでもあり。
異なるのは家屋の形とあたりが羊であふれていることでしょうか。

正直なところ3日間も運転すると少々飽きてきました。
庭はナショナルトラストの庭、民間の庭と幾つかみましたが、まだ庭のシーズンには早いのか、それともやる気がないのか、あまり胸がときめきませんでした。


庭という人工的な造作物よりも自然のほうがこのスコットランドでは魅力があると悟るのにさほど時間は掛かりませんでした。
ただエジンバラ王立植物園は見ごたえがありました。
植物コレクションも見事なものでモクレン、シャクナゲなどが満開でしばし見入ってしまいました。
以前の自分であれば見向きもしなかったでしょうが、人は変われば変わるものです。
写真も200枚以上撮ったと思います。

3日目。その日の宿を探すべく車を走らせていました。
スコットランドは緯度が高いこともあり4月上旬の今暗くなるのが21:00頃で、あまり早く宿を決めて落ち着くよりも明るいうちに行けるところまで行って程良いところで宿を確保するほうが効率が良いと決めました。

この旅を通じて改めて僕の中にかなりの節約魂が根付いていると実感しました。
旅にでるときには普段は節制しているけど、たまの旅行くらいは美味いものを食べて庭のキレイな快適な宿に泊まってやろうと思っていたのに実際はフィッシュアンドチップス、シシケバブ、サンドイッチといったファストフードに終始しておりました。
宿にしても「一泊20ポンド以内」という節約重視の目安がいつの間にか自分の中に出来上がっていて、それを超える勇気がありませんでした。

その日も幾つかの宿を当たってみたのですが、「一泊27ポンドだよ」「ちょっと考えさせてください。また来ます。」なんてことを繰り返しているうちに日はどっぷりと暮れてしまいました。
そんなおり目に入った看板に「ホステル7.50ポンド」の文字が。

これだ!車を走らせました。
途中看板には「ここから11キロ先」とあり側道に入って車一台やっと通れるくらいの狭い道が続きます。
あたりは暗く民家ひとつ見当たりません。
車を運転しながら宮沢賢治の「注文の多い料理店」を思い出しながら、今晩オレはどうなるんだろうと少々不安になっているとようやくほのかな光が。

そこはホステルとはいっても山小屋のような雰囲気で先客として男性客3人が酒盛りをしていました。
3部屋あるうちの一部屋をまるまる一人で使っていいとのことで、ことのほか快適な宿となったのでした。

酒盛りをしていた3人に合流し話を聞くと、1週間このホステルを拠点として石垣の修理をする仕事をしにきているとのことで話がはずみ深夜まで一緒に盛り上がりました。
彼らに日本人だと誰を知っているかと聞いてみると「ナカター」という返事がスグに返ってきました。
他には?と尋ねると、「ミツビシ、トヨタ・・」ってそれは人の名前じゃないだろっていう回答がよせられ大笑い。

朝は自炊でしたが、このホステルの目玉サービスは「タマゴ食べ放題」ということらしく一応タマゴ二つの目玉焼きを作りましたが、それ以上は食べられるものではありません。
腹ごしらえのあと気分よくその宿を後にしました。
安くてほどほど快適、そして楽しい話相手にも恵まれ最高の宿でした。

丁度ここで腕時計の電池が切れるというハプニングに見まわれて文字通り時間にとらわれない旅と化していったのでした。


ネッシーで有名なネス湖にも立ち寄りました。
ネッシーという名物があるというのは観光資源的見地からはとても価値があるのものだと感じました。
実在しないというネッシー目当てに多くの観光客が押し寄せ、ネッシーセンターもあればネッシーティーシャツなどの各種ノベルティも沢山ありました。
日本であればネッシー手形、ネッシー饅頭、ネッシー提灯などが売られそうなそんな盛り上がりです。

ネス湖にさしかかる手前の道路で黄色の蛍光色のジャケットを着た警官に止められました。
警官は僕が東洋人であることを一瞥して「しまったなぁ」という表情でスピードガンを僕に見せながら「スピード違反です。ここは30マイルの制限域ですが42マイル出ていました。観光ですか?」とのこと。
「そうなんですかぁ。気付きませんでした。本当に申し訳ない。」とエラく恐縮すると、先方も国際免許を持った日本人に違反切符を切るのが面倒臭いといった感じで「これからはユックリと運転してくだサーイ」と幸運にも放免されたのでした。

泊まってみたい理想のホテルというのが自分のなかにはありました。
牛や羊を飼っている牧場の宿、山の中の一軒家的宿です。
ありそうでなかなか理想的と合うものは見つかりませんでした。
しかし最後の晩に神様は味方しました。

夕方、小雪の舞う山道を走っていると川にかかる橋がとてもいい具合に弧を描いて、いかにもスコットランドという風情でした。
思わず車を止めて眺め入っていると橋を越えた川辺に一軒の建物があり小さくHOTELとあります。
車をそのまま置いて歩いて建物に近づくとおばさんが出てきたので泊まれるか交渉をしたら大丈夫だとのこと。

その外観が石組みでできた建物は恐らく1800年代あるいはそれ以前のものでしょう。
部屋に通されるとダブルベッドとシングルベッドがあるゴージャスな部屋でした。
案内された階下には居間があって暖炉がパチパチと静かな音をたてており、窓からは脇を流れる川と山の稜線が見えるとてもかんじの良い宿でした。
そこにも先客がひとりいて、彼はここの常連客のサンディという老人でした。

彼はロンドン郊外に住んでいて休みにはここを頻繁に訪れて山歩きとフライフィッシングを愉しみ、暖炉にあたりながらウイスキーを舐めつつ本を読むのだそうです。
絵に描いたようなライフスタイルで悔しくなってしまうほど。

そういえば表にとまっていたレンジローバーは彼のものだったのでしょう。
普段は都会で働き週末にこういったところでノンビリするという英国人エリートの優雅さを垣間見た思いです。
彼の御馳走でスコットランド特産シングルモルトウイスキーをいただきながら話が弾んだのでした。
朝食も食べきれないほどのボリュームで宿泊費全て込みで20ポンドとほぼパーフェクトな宿に思えましたが決定的な欠点がありました。

寝室が寒いのです。

部屋がいたずらに広いせいでしょうか、暖房はほとんど効いていません。
最初に部屋に案内されたときに主人が電気毛布の使い方を説明してくれた理由がやっと分かりました。
その電気毛布も日本の電気毛布のように微妙な温度調節が出来るような洒落たものではなくて「ON」と「OFF」のみ。
このONがこれまた激しくONなのです。
熱くて寝れなくてスイッチを切るのですが、電気毛布を使うことを前提としているためか掛け布団が極薄なのです。
寒くてON熱くてOFF寒くてON熱くてOFF・・・と一晩中繰り返し、大抵の環境では寝れる自信はあったのですがこの日は睡眠不足でした。

わずか6日間でしたが「そうだよなぁ旅ってやっぱり良いもんだよなぁ」と思える充実した旅でした。
もっともっと書きたいことはあるのですがきりがないのでこの辺で切り上げます。
最後にスゲェなぁということがあったのでそれを記してオシマイに。

旅を終えてエジンバラからヨークに向かう列車のなか。
隣には体格のよろしい20代のイギリス人女性が座っていました。
彼女はスックと立ち上がり席を離れて食堂車からインスタントグラタンを買ってきました。

よい香りがあたりにたちこめ、彼女はそれをハフハフ言いながら美味しそうに食べています。
気にせずに車窓から景色を眺めていると、彼女の新たな行動に気付き目をやりました。
彼女は袋の中から炭酸飲料とキットカットをとりだして、キットカットをかじってはグラタンを頬張り炭酸飲料で流し込むというエゲツない食べ方を披露してくれました。
道理で体格がいいのね、とうなずくことしきりでした。

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